Sound Mystique 新しい音の神話

ザ・リッツ・カールトンが誇る、一番新しい都心の隠れ家、ザ・リッツ・カールトン・東京の全スイートルーム36室エムズシステムのMS シリーズスピーカーが採用されました。

ゆったりとした客室の空間全体に優しく、豊かに広がる音色はラグジュアリーワールドを味わい尽したジェットセッターたちにザ・リッツ・カールトン東京の新しいMystique(ミスティーク)を提供することになるでしょう。

では何故ザ・リッツ・カールトン・東京は世界に数ある音響メーカーの中からエムズシステムを選んだのでしょう?その理由をこれからお話しますが、この物語こそ、現代の新しいミスティーク(神話)と呼べるでしょう。

奇跡の確率
サービスを越える瞬間
天空の隠れ家
リッツ・カールトン・スイート・スタイル
奇跡の確率
このスピーカーがもたらしてくれた奇跡のような出来事をお話する前に、私がこの地上に降り立った奇跡の確率について。と言っても、私ははるか彼方の惑星から飛来した宇宙人でもなく、白いひげをなびかせた仙人でもありません。ごく普通の当たり前の真ん中にいるような一人の男です。

しかし、そんな私がこの地上に命を持って誕生する確率はどのくらいのものかと言うと、どうもとんでもない奇跡がとんでもないくらい重なり合わなければならないらしいのです。それは、イリノイ州の郊外にある、くず鉄置き場に超大型のトルネードが、(竜巻ですね)やってきて、3 分間というもの、あたりが暗くなるほどくず鉄やごみや様々な破片を空中に撒き散らします。その後、トルネードは発生したときと同じように一瞬にして消え去ります。

空は広々と青空。宙に撒き散らかっていた破片たちはどこに行ったのか?くず鉄の山の代わりにくず鉄置き場に誕生したものは?最新鋭の巨大なそしてとてつもなく精密なジャンボジェット機です。

そんなこと、起きる訳がない!

そうです、起きる訳がないことを奇跡と呼ぶんでしたよね。私たちの命がこの地上に存在している確率はそれくらいの起きるはずのない奇跡なんだそうです。そうして生まれた奇跡的な生命が織り成す奇跡が毎日起こるのです。
サービスを越える瞬間
今から半年前、私は手紙を書きました。宛先はザ・リッツ・カールトン・ジャパン支社長の高野登氏です。彼の著書を拝読したからです。「サービスを超える瞬間」なんと魅惑的なタイトルでしょう。

私もこのスピーカーを開発し販売するまでの20年間はサービス業の最前線に就いていた者ですから(そのまるで畑違いの男が何故スピーカーを売っているのかは、また別の機会にご説明するとして)その瞬間を目指しながらも、その瞬間とはいったいどんな風に作り出せるのか、分かっているようでうまく言葉で表せないもどかしさがありました。

きっとホスピタリティというキーワードでその瞬間を表現されるのだろうと思いながら表紙を開きました。すると本の扉にすでに答えが書かれているのです。

「お客様自身が気づかれていない望みとはなにか」
「それに対して自分ができる最高のおもてなしは何か」


これらを常に、考え、思い、感じること・・・・・

世界でも超一流という冠を戴き、日本にある唯一のリッツ・カールトン・大阪は常にホテルランキング1位をキープしています。その秘密がたっぷりと語られているこの本はサービス業のバイブルに等しく、多くの共感と驚きを与えてくれました。

否、この本はサービス業の枠を超え、私たちが日々生きていくうえで何を喜びとするかを教えてくれます。期待を遥かに超えた最高のおもてなしを常に心がけているところにサービスを超える瞬間がある。まさにそれはサービスを超えて、おもてなしするという楽しさと喜びを味わう瞬間でもあるのです。

与え、捧げて生きていく喜びを伝えてくれているのです。

そして同時にひとつの思いがむくむくと私の心の中に湧いてきました。
そこまで顧客のことを考えて、顧客がまだ思いつかないサービスを提供することこそがリッツ・カールトンの合言葉でありテーマそのものでもあるミスティーク(神秘)であるならば、エムズシステムの波動スピーカーの奏でる音こそ、彼らがまだ知らず、でもきっと捜し求めているに違いないものだろうと。

一度「お帰りなさいませ」とホテルに迎い入れた時からゲストの五感に最上のものを提供しているに違いないリッツ・カールトンでさえ、「音」についてどこまでのこだわりと配慮がされているのでしょうか。

大阪のリッツ・カールトンが開業してまもなく、宿泊こそしていないのですが、見学を兼ねてロビーでお茶を頂いたことがあります。グランドピアノの生演奏がゆるやかにロビーに流れていたことを思い出します。でも部屋の中はどうでしょう?

人間は聴覚動物と呼ばれています。生死の判断をする際に最も正確な判断を下せるのが聴覚だからです。暗闇で敵に襲われそうなとき、私たちは何に頼るでしょう。見えない、触れない、臭いで判断するほど鼻は利きませんし、もちろん味わうわけにもいきません。

私たちは耳を澄ませて、その気配を感じるのです。

また、生まれてから死ぬまで、他の感覚は自ら閉じることができますが、聴覚だけは絶え間なく働いています。正確に言えば、生まれる前の胎児の頃から聴覚だけはきちんと機能しています。

音を認識するために私たちはリンパの海に24000 本のセンサーを漂わせ、外耳、中耳、内耳、と伝わってきた振動でリンパの海を振動させ、その振動数に共振するセンサーの組み合わせによって、音を認識するのです。

まさに奇跡のような機能ですが、その大切な、繊細な、鋭敏な聴覚に対して、私たちは日ごろ何を与えているのでしょう。デジタル音、機械音、直接音のようなもので自分を取り囲んでいないでしょうか。

音の質を意識することもなく。

もちろん、騒音、雑音は排除し、避けようとするでしょうが、音楽や音そのものがもつバイブレーションの質については案外無頓着なのかもしれません。でも、味覚はどうでしょう? 毎日ジャンクフードを食べ続けたら、自分の心と体がどんなことになってしまうか、容易に想像することができます。

ですからそんなことは誰もしません。何故でしょう? それは美味しくて栄養のあるオーガニックフードを食べたことがあるからではないでしょうか。心と体に良いものを味わった経験があるからジャンクフードに手が伸びないのです。

それでは聴覚ではどうでしょう? いま聴いている音がジャンクかどうかの意識もないままに、その音を容認しているかもしれません。

私は手紙を書きました。確かに視・嗅・触・味の四感については常に最高のレベルを提供していると思いますが、「聴覚」については如何でしょうか?と。胸を張って、自信を持って、もちろん聴覚も、と答えられますかと。

少々かなりとても尊大で失礼な手紙であることは承知していました。しかし、最高の評価を得ている人こそ、このような直截な批判に素直に反応してくださるはずだと思っていました。

投函した3 日後には高野さんから電話が入りました。ここがリッツ・カールトンのすごさではないでしょうか。もちろん高野さんご自身のすごさでもあると思います。日本支社長はホテルのある大阪にいらっしゃるだろうと思い込んでいた私は、大阪の住所をあて先にしていました。

ですから電話を頂いたときには、「それでは日時を指定していただき、早速そちらにお伺いいたしますので、まずはこの波動スピーカーの音色をご体感下さい」と申し上げました。

ところが高野さんは「いえいえ、こちらから参りますので、御社のご都合をお聞かせください」とおっしゃる。

「いやあ、こちらが提案したことですからこちらからお伺いします」

「いやあ、意外と近いので私がお伺いします」

日本支社は麹町にあったのです。地下鉄で乗り換えなしの10分。意外とお近く、だったのです。

高野さんはそれから2日後にはエムズシステムの試聴ルームにお越しになり、その場でスピーカーを2種類お買い上げ下さいました。この反応の速さ。身軽さ。決断。ゆとり。遊び感覚。謙虚さ。成功者が持っているすばらしい資質が高野さんから溢れていました。

彼はすっかりエムズシステムのファンになってくださり、それから幾日も経たないうちにとんでもない企画(!)を実行されました。お仲間をエムズシステムに4 人集めました。何があるとも、エムズシステムが何の会社かも知らせず、とにかく来てくれ、サプライズゲストを呼んでいるからと。

私にとってもサプライズでした。当日の約束の2時間ほど前に電話があり、「試聴ルームに確かカーテンがありましたよね?」「ええ」「それならばできるなあ」「何がですか?」「いや、ちょっとしたサプライズです」高野さんは楽しそうにそうおっしゃるだけです。

彼の計画はこうです。まず私が一言二言話しかけ、いきなりカーテン越しに突然CD をかける。それはジェイク・シマブクロのウクレレのソロ。高野さんが4 人に、突然スケジュールが空いて、スーパーサプライズゲストが来てくれたのだと説明する。

3 曲目を終えてジェイクを紹介しようとカーテンを開けるとCD ジャケットを持った私が立っている。という仕掛けなのです。

「高野さん、いくらこのスピーカーのライブ感がすごいといっても、カーテン越しに4人をだませるものではありませんよ」「大丈夫です。これはライブですよ。必ずここにいると信じてしまうほどライブです。きっとみんな驚きますよ。もっと面白いのは4 人のうちのひとりはハワイでウクレレを弾いていたジェイクを日本デビューさせたご本人ですからね」

何と無謀な!そしてそれを計画通りに実行してしまったのです。
これを「サービスを超える瞬間」と呼んでよいのかどうか私には分かりませんでしたが、カーテン越しに響いてくる4 人と高野さんの真剣な拍手に私自身、感動してしまいました。

高野さんとはその後、何度もお会いして、お客様をご紹介して頂いたりしてお世話になっていましたが、リッツ・カールトン・東京へこのスピーカーを導入する、しないに関しては役割が違うのでなんとも言えないというご判断を頂いていました。

それから時が経ち、年が明け、東京ミッドタウンの開業もカウントダウンを読み始めた2 月上旬に高野さんから電話が入りました。「客室支配人のジェニーがエムズシステムを聴いてみたいといっているのですが」
天空の隠れ家
まだ周辺の道路工事も終わらない東京ミッドタウンの中心、ザ・リッツ・カールトン・東京に予定の時間よりかなり早めに着いてしまいました。車の流れがよく、銀座も六本木もするすると走ってきたため約束の時刻までかなり余裕があります。

といって、この辺りで車を楽に停めお茶ができる場所も思い浮かばず、そのまま、工事のゲートに車を寄せると、警備の方が軽く会釈をして車を誘導してくれました。こんなとき、このツートンカラーのオールドベンツはとても役に立ってくれます。(このすばらしい車が私のもとに来ることになったいきさつはまた別の機会に)

ホテル正面の車寄せに停めて中に入ろうとすると、女性が駆け寄ってドアを開けてくれました。「30分も早くついてしまったので、ここで待たせていただけますか」と尋ねると、彼女はもうひとつ大きな扉をあけ、日本風のプリントがあしらわれた大きなソファを勧めてくれました。

建物と内装はすでに出来上がっていて、リッツ・カールトンらしい品のいい落ち着きが漂っています。向こうのソファの周りには靴や、スリッパが見受けられ、磨きこまれた大理石の床を開業前に傷つけないよう、来訪者はここで靴をスリッパに履き替えるというホテル側の気遣いが伺えます。

静まり返ったロビーを勝手に歩いていると、先ほどドアを開けてくれた女性が、お茶を運んで来てくれました。スティックバーに砂糖が絡めてある温かい紅茶をいただきながら、これがリッツ・カールトンのサービスの始まりか!とうれしくなってきてしまいました。

予定の時間よりはやく階上に案内され、まずは直通エレベータで一気に45 階のメインロビーまで上がり、そこからリッツ・カールトンご自慢のスイートルームに案内されました。

客室支配人のジェニー・トゥーさんは見るからにスマートなキャリアウーマンで、挨拶を交わしながら私の英語でも商談ができると判断したらしく、「あなたの英語でしたら全く問題ありません。わたしも早く日本語を習わなくちゃ」「じゃあ、次のミーティングまでにお願いします」「それは厳しすぎますよ」と微笑みながら秘書の方を他の業務へ向わせました。

スピーカーの梱包を解いて、ベッドルームのコンソールの上に置いて驚いたのはジェニーさんだけではありませんでした。この私自身も驚きました。この東京のために特別にデザインされて作られた家具はすべて黒を基調としており、ところどころに濃いこげ茶色が使われているのですが、それはその日持参したMS1001−JAPAN 漆塗り仕様の色調と完璧に合致していたのです。

ジェニーさんはおそらく普段はそう簡単にこの言葉を使わないだろうに、と思わせるほど鋭い目つきを緩め、にっこりと微笑んでひとこと言いました。

「パーフェクト!」

まさにそれは完璧なコーディネイトでした。

もちろん高野さんが紹介してくれているからでしょうが、エムズシステムのスピーカーはリッツ・カールトンのなかですでにかなりの話題になっていたらしく、スイートルームで実際にその音色が聞けるとあって、いろいろな人がやって来ました。

もちろん総支配人リコ・ドゥブランクさんも。セールス&マーケティング支配人の吉江さんも。レジデンス棟のマネージャーも、施設担当の方々も。これ以上のデモンストレーションの機会はないでしょう。

スイートルームの部屋は2 重のドアできちんと防音されているし、気持ちの良い照明と、落ち着いた家具が配置されています。その都心の真ん中の天空の隠れ家リッツ・カールトン・東京。そこに最上のホスピタリティの提供を使命としている人々が集まって波動スピーカーの音色を聞こうとしているのですから。

そして音色は彼らを完全に魅了しました。

準備が整ったときに、チャンスがチャンスとして捉えられるときに「チャンス」は確実にやってくるのだと思います。

漆塗り仕様の最高級ヴァージョンMS1001-JAPAN やイタリア製高級皮革で巻いたMS0801-L が製品として出来上がったタイミングで、リッツ・カールトンのスイートにこそ相応しいアイテムが整ったときに、この話が舞い込んできたわけです。


これが半年前だとしたら? こちらから望んだチャンスに対して最高の品揃えで臨めたかというと、それは難しかったかもしれません。やはり、時はいま、なのです。
リッツ・カールトン・スイート・スタイル
リッツ・カールトン・東京の皆さんがエムズシステムのスピーカーの奏でる優しく豊かな音色をとても気に入ってくださったのは肌でも感じましたし、事実、口々に賞賛してくださいました。が、採用決定の通知が来ないのです。

提案した漆塗りやイタリア製の革の手配にはかなりの日数がかかります。このままではオープンに間に合いません。

私はジェニーさんにメールをし、決定を促しました。彼女からすぐに答えが返ってきました。最上階にあるリッツ・カールトン・スイートでもう一度聞かせて欲しい、というのです。

まさにこちらの望むところです。300m2のスイート、そのゆったりと広がる優雅なリビングダイニングに素敵な音楽を満ち渡らせるとしたらこのエムズシステム・サウンドしか考えられません。私たちが開発したスピーカーは従来の概念から完全に超越した音の再生を実現しました。

良い音を聴くには、大きくて、重くて、2 つあるスピーカーと聴き手自身を結ぶ三角形の頂点である、リスニングポジションに位置しなければならず、と文字で書いているだけでも疲れそうな制約がたくさんあります。要は、置く場所も、聞く場所もとても限定されていたわけです。

ところがこの波動スピーカーはひとつで、小さく、軽くて、どこに置いても、どこで聞いてもライブ感あふれる豊かな音色が空間自体に広がって行くので、聞く場所も限定しませんし、本来の音楽の楽しみ方である、「自由」が満喫できます。しかも限られたスペースでも、広大なスペースでも空間全体に広がっていくので、ライブ感が減衰しないのです。

こうして表現を重ねていても、この豊かな音色を伝えきれないもどかしさが残りますが、それは同時に、一度でもこの音色に触れる体験があれば瞬時にして分かって頂けるということでもあるのです。

ジェニーさんと私はダイニングのボードの上にセットしたMS0801−Lから20mも離れたリビングの一隅に腰掛け、その音に包まれながら握手をしました。

彼女は満面の笑みを浮かべて「DONE!」(決定!)と一言。

リッツ・カールトン・東京がエムズシステムのスピーカーを全スイート36 室に採用した瞬間でした。